債務控除
2020年8月27日
相続税を計算する上で、被相続人の債務や葬式費用は財産の価額から控除することができます。
これを債務控除といいますが、そこには一定のルールがあるので解説していきます。
相続の開始
相続が開始されると、被相続人のプラスの財産は相続人間で共有している状態になります。
一方で債務については法定相続分で承継することになります。
これが全ての出発点となるのでしっかりと理解をしておく必要があります。
その上で、プラスの財産は遺言や遺産分割協議により共有状態が解消され各個人への帰属が決定することになります。
ただし相続の放棄をした場合は、はじめから相続人ではなかったと考えるため、プラスの財産と債務について承継することはなくなります。
遺贈・遺産分割協議
では債務(金銭債務)について、遺言や遺産分割協議で特定の者が負担することとした場合は認められるでしょうか。
債務は遺産分割の対象にはなりませんが(昭和34年6月19日最高裁)、実務上対象とした場合は、相続人間では有効とされますが、債務者に対しては効力がないこととなっています。
例えば銀行への借金があった場合は、銀行としては全ての相続人に対して返済を求めてきます。
また拒否することもできません。
負担額については法定相続分で按分します。
ただし銀行が交渉に応じて特定の相続人が負担すると認めた場合は、新たに契約した通りとなります。
もし認められない場合でも、一人の相続人が債務を返済することも考えられます。
遺産分割協議で特定の者が債務を引き継ぐことが実務上あり得るからです。
この場合は債務控除が可能です。(相基通13-3)
これは債務の分割を申告上容認しているので、贈与税の問題も生じないとされています。
これらのことから結果的には債権者の承諾なしに、特定の相続人が債務を事実上引き受けることも可能と考えられます。
ただし特定の相続人に債務が集中してしまうと、債務控除について控除しきれないケースも出てきます。
この場合は相続財産全体が多くなってしまうので、相続税の総額も増えることになります。
ちなみに債務を分割せずに法定相続分で債務控除を受ける場合は、控除しきれなかった部分は他の相続人が債務控除を受けることができます。(相基通13-3ただし書き)
よって債務が多い場合は、債務について遺産分割協議をせず、法定相続分で債務控除を受ける方が有利なケースもあります。
保証債務と連帯債務
保証債務とは、要するに保証人となっている状態のことです。
主たる債務者が返せなくなったときに返済を求められる単純保証と、主たる債務者に代わりいつでも返済を求められる可能性がある連帯保証があります。
この保証債務についても相続人に承継されるので注意が必要です。
ただしいずれの場合も、債務控除の対象にはなりません。
逆に債務控除の対象となるケースとは、主たる債務者が返済不能になり、代わって返済をさせられた分を主たる債務者に請求しても返還の見込みがない場合です。
ちなみに保証債務の履行(借金の返済)のために資産を譲渡した場合は、譲渡所得が課税されない特例があります。
また保証債務の履行のために借入れをすることも考えられます。
この借入金を承継した相続人についても、その返済のために資産を譲渡した場合は、この特例が適用できる場合があります。
一方、連帯債務とは共同で借金を返済するようなものです。
その負担割合は均等か、連帯債務者間の合意によるものであり、返済すべきことが確定している部分がある場合は、債務控除の適用が受けられます。(相基通14-3)
租税債務
被相続人が亡くなられた時点で未納である租税についても、金銭債務と考え方は同様です。
ただ国税通則法では、未納の国税について相続人が法定相続分で承継することとされています。
よって遺産分割協議により特定の相続人が、他の相続人が承継すべき国税を代わりに引き受けた場合は贈与税の課税も考えられますが、相続人間の合意があれば課税問題は生じないとされています。
また債務控除も引き受けた部分について適用できます。
なお国側は各相続人に対して法定相続分で国税の請求をしてくることになり、これを変更することはできません。
その場合は引き受けた特定の相続人が支払えば問題ないことになります。
相続税法の債務控除
今までは控除できるか、できないかという観点で見てきましたが、具体的に相続税法での規定をご説明します。
①控除できる債務
相続開始時に存する確実と認められる債務で負担する部分、並びに葬式費用。
※債務には公租公課を含みますが、附帯税等は含みません。
具体的には借入金、税金、未払いの水道光熱費、未払いの医療費などが該当します。
②控除できない債務
墓地等、非課税財産の取得、維持、管理のために生じた債務。
③納税義務者の区分による制限
制限納税義務者については取得した国内財産に係る公租公課、国内事業所に係る買掛金等の債務に限定されています。
葬式費用
葬式費用について債務控除を受けるには、本来領収書などの保存が必要ですが、お布施など領収書がない場合はメモ書きでも可能とされています。
また葬式費用として認められないものもあるので注意が必要です。
まとめると次のようになります。
①葬式費用となるもの
・通夜、本葬費用
・お布施、読経料、戒名料
・火葬、埋葬、納骨費用
・遺体又は遺骨の回送費用
・遺体又は遺骨の捜索、運搬費用 など
②葬式費用とならないもの
・香典返し
・墓碑、墓地
・法事に要する費用(初七日、四十九日等)
・医学上、裁判上の処置に要した費用(解剖費用等) など